2019年5月28日火曜日

木材を新素材に変えることに成功

木材を鋼鉄より強く&熱を反射して空気を冷たく保つ新素材に変えることに成功




現代の建築物はセメントやコンクリート、鋼鉄などの素材を使用したものが多く存在しますが、セメントやコンクリートは製造の過程で多くの二酸化炭素を生み出し、鋼鉄の製造には多くの資源が必要となるという欠点があります。また建築物が完成した後も、建物の暖房・空冷はエネルギー問題の核となっており、これら建築・建材に関する問題を解決するために数多くのアイデアが生み出されてきました。そして新たに、研究者が「鋼鉄より強く、太陽光を反射し余分な熱を放射する」という素材を開発したと発表しました。魔法のようなこの素材は、実は「木」をベースに作られているとのこと。

Stronger than aluminum, a heavily altered wood cools passively | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2019/05/chemically-treated-wood-could-send-excess-heat-to-space/

A radiative cooling structural material | Science
https://science.sciencemag.org/content/364/6442/760

木は主にセルロースと呼ばれる炭水化物(多糖類)とリグニンというポリマーによって構成されます。リグニンは単一ポリマーではなく、ランダムな場所で高度に重合することが可能です。さまざまな場所で化学結合ができるリグニンは非常に構造が複雑で、ゆえに頑強なメッシュを作り出すことで知られています。


セルロースは鎖を簡単に分解して単糖に変えることができますが、リグニンはその変動性ゆえに消化や分解が難しいもの。逆にいうと、セルロースだけでは実現できない「固さ」をリグニンが生み出しているといえます。

新たな研究で発表された方法は、過酸化水素の中に木を入れて、リグニンを取り除いた木を圧縮するというもの。リグニンが木の強さを生み出しているという前提から考えると、この方法により木の耐強度は落ちそうに思えますが、糖からぶら下がった酸素/水素基が相互作用しあうことによって高密度の水素結合のメッシュが生み出され、通常の木材よりも強度の高い木材が完成するとのこと。

新素材を作り出している様子や、新素材の特徴などは以下のムービーから確認することが可能です。

Cooling Wood: An Eco-Friendly Building Material - YouTube


研究を行ったメリーランド大学のLiangbing Hu博士が左手に持っているのが新素材、右手に持っているのが通常の木材。新素材の色合いが明るい白色なのがわかります。


これが木材を過酸化水素処理しているところ。


完成したものは紙のように真っ白です。


新たな方法で生み出された木材は折り曲げ、引き延ばし、衝撃を与えるなどさまざまな方法で強度が確認されました。特に引張強度は鋼鉄やチタニウムを上回ることもあったそうです。新たな手法の開発により、通常では木材の使用が考えられない場面で、今後木材が使われるようになる可能性も考えられます。
そして、特筆すべきなのは上記の手法で生み出された木材が「太陽の熱を吸収しにくい」という性質を持つということ。過酸化水素で処理された木材は太陽光がセルロースのメッシュの中で跳ね返って広がっていくという性質を持つため、角砂糖が白く見えるのと同じ原理で通常の木材よりも白い色合いになり、通常の木材よりも熱を捉えにくくなるそうです。実際に研究者がアメリカ・アリゾナ州の農場で通常の木材と過酸化水素処理した木材で作った箱を用意し、箱の中の温度を比べるという実験を行いました。実験の結果、過酸化水素処理した木材製の箱の中の温度は、日中の最も暑い時間帯であっても4度以上低くなることが示されています。

また研究者が平均的な設計のアパートのモデルで、過去の気候データを用いてアメリカ16州のどの地域でこの木材が活用できるかを調べたところ、アトランタやラスベガス、フェニックスなどでこの新しい木材を使うと施設冷却のためのエネルギーを削減できることが示されたとのこと。研究者は、既存の建物を過酸化水素処理された木材で覆うことで、冷却のためのエネルギーを35%も削減できると述べています。

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