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現代の子供たちは、過度の不安感や孤独感、疎外感を持っていたり、うつの症状が多くみられるという。海外ではこれらを「内在化障害(internalizing disorder)」と呼び、そう診断される子供は5人に1人いるそうだ。
なるべく早期に発見して、問題の芽を摘み取ることが大切なのだが、8歳未満の子供は心の苦しみをしっかりと伝えることができない。
大人の側が常に心の状態を察知してやらねばならないのだが、それもままならない。そこで開発されたのがAIによる診断だ。
子供たちの声を聴くことで内在化障害かどうかを診断できるという。
AIで子供の心を診察できるかどうかをテスト
内在化障害であるかどうかは、専門の医師が60~90分ほどの問診を行なって診断するのが標準的なやり方だ。
これを観察していたアメリカ・バーモント大学の生物医学工学者、エレン・マクギニス氏は、多くのパターンを機械学習で訓練したAIでやれば、もっと素早く確実にできるのでは? と考えた。
そこで、3歳から8歳の子供71名に3分間の物語を考えてもらうという課題に取り組んでもらった。
実験前、子供たちには物語の出来の良し悪しが評価されると伝えられる。評価者である実験者は常に厳格な口ぶりで、中立か悪い評価しか与えないことになっていた。
また彼らが物語を語り始めてから90秒経過後と150秒経過後にいきなりブザーが鳴り、残り時間が告げられた。
これは「トリーアの社会的ストレス課題」と呼ばれる手順を応用したもので、わざと子供たちが不安やストレスを感じるように設計されていた。
子供の声ににじむ不安の検出に成功
実験中、子供たちの声は録音され、それを機械学習で訓練したAIで解析。その子供に内在化障害の兆候が見られるかどうかを予測してみた。
するとその結果は、実験後なされた標準的な内在化障害の診断結果とぴったり一致していたのだ。
AIは内在化障害を80パーセントの精度で言い当てた。しかもそれを子供たちが課題を終えてからわずか数秒という迅速さで行うことができた。
声に潜む内在化障害の兆候
AIが検出したのは子供たちの声に現れていた8種の特徴だ。特に目立っていたのは「声の低さ」「抑揚の変化や繰り返される内容」「突然のブザーに対する声色の高まり」の3つだった。
マクギニス氏によると、こうした特徴はうつを患う人にも共通して見られるものだという。
たとえば、うつの人は抑揚のない調子で、同じ内容を繰り返し話すことがあるが、それは今回AIが感知した声の低さや繰り返される内容となって現れていた。
ブザーに驚いて声が高くなるのも同様だ。内在化障害の子供たちは、恐怖を喚起させる刺激に対して強く反応する傾向がある。
より手軽で優れた診断法へ向けて
内在化障害を早期に的確に発見できれば、子供の脳はまだ発達段階にあり治療に対してもよく反応してくれる。一方で見過ごしてしまうと、取り返しのつかない場合もある。大切な治療の機会を逃すことのないよう、簡単にできて、それでいて確実なテストが求められる所以だ。
これまで、AIで体の動きを解析することで、正確に内在化障害を診断することに成功していたが、この方法は、子供にモーションセンサーを着用させた上で暗い部屋に入ってもらい、おもちゃのヘビなどで驚かせてみるなど、手間がかかるという欠点があった。
今回の声による診断なら、ただ音声を録音し、ブザーでびっくりさせればいいだけなので、手軽にできるというメリットがある。
今後マクギニス氏らは、もっと簡単にこうした診断が行われるよう、スマホのアプリ開発を目指す予定だそうだ。またモーション解析と組み合わせる方法についても検討しているという。
この研究は『Journal of Biomedical and Health Informatics』に掲載された。
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