2019年6月13日木曜日

がん転移を大幅に抑制する可能性

血中のがん細胞をレーザーで破壊する新しい治療法、がん転移を大幅に抑制する可能性




がんを作る「がん細胞」は血流やリンパに乗って体の至る所に転移します。そんな血中のがん細胞を、レーザーを用いて破壊するという新しい治療法が考案されました。公開されたばかりの最新の研究論文によると、皮膚の外側からレーザーを照射することでがん細胞を破壊することに成功しています。

In vivo liquid biopsy using Cytophone platform for photoacoustic detection of circulating tumor cells in patients with melanoma | Science Translational Medicine
https://stm.sciencemag.org/content/11/496/eaat5857


Laser Destroys Cancer Cells Circulating in the Blood - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/the-human-os/biomedical/diagnostics/laser-destroys-cancer-cells-circulating-in-the-blood

学術誌のScience Translational Medicine上で公開されたばかりの最新の研究論文で、レーザーを用いて血中のがん細胞を破壊する治療法が発表されています。この治療法は被験者として集められたがん患者28人のうち、27人のがん細胞を正確に検出することに成功しており、加えてがん細胞が静脈を流れる際には、高い確率でリアルタイムにがん細胞を破壊することに成功しています。

研究チームはレーザーを用いた治療法により、「がん細胞が新しい腫瘍を作り出す前に、がん細胞を検出して破壊できるようになる」としています。レーザーは皮膚の外側から照射されるため、非侵襲的な方法でがん細胞を徹底的に破壊することができるようになる可能性があります。

同研究に参加したアーカンソー医科大学のアーカンソーナノ医療センターでディレクターを務めるウラジミール・ジャーロフ氏は、「この技術はがんの転移を大幅に抑制できる可能性を秘めている」と語っています。


がんの拡大および転移は、がん関連の死亡原因として大きな割合を占めるものです。がんには「原発性」と「転移性」の2種類が存在しており、それぞれ腫瘍としての性質が全く異なります。「原発性」のがんは、その部位で発生したがんを指し、例えば肝臓で発生したならば「原発性肝臓がん」となります。「転移性」がんは他の部位から転移してきたがんを指し、例えば肝臓で発生した原発性肝臓がんから発生したがん細胞が転移して大腸でがんを作り出したならば、「転移性大腸がん」となります。腫瘍の発生源は「原発性」、他の部位で発生したがん細胞が血やリンパに乗り転移した場合は「転移性」と呼ぶわけです

転移性がんの元となる「循環がん細胞(CTC)」が安定する前に破壊することで、転移性がんの発症を抑制することが可能となります。また、単純にCTCがどの程度体内に存在するかを数えることができれば、医師は転移性がんについてより正確な診断および治療が行えるようになると考えられてきました。


そこで、ジャーロフ氏ら研究チームはメラノーマあるいは皮膚がんを患う被験者を集め、レーザーを用いたがん細胞破壊システムをテストしています。レーザーは静脈に照射され、被験者の血中にエネルギーを送り込みます。メラノーマのCTCは通常の細胞よりもレーザーが血中に送り込むエネルギーを多く吸収するため、CTCは加熱により急速に膨張するとのこと。この熱膨張は光音響効果として知られている音波を発生させるため、超音波トランスデューサーを用いることで検出可能となるそうです。このメカニズムにより、CTCがいつ血中を通過しているのかが検出可能となります。

さらに、検出に使用するレーザーを用いてリアルタイムでCTCを破壊することも可能です。レーザーからの熱がCTCに蒸気の泡を発生させ、この気泡が膨張・破裂することでCTCを機械的に破壊することができるとのこと。

今回発表された研究論文の目的はレーザーと超音波トランスデューサーを用いてCTCを検出する精度をテストすることでした。しかし、低出力でのCTC検出モードであっても6人の被験者のCTCを破壊することに成功しており、「ある患者の体内では96%のがん細胞を破壊することに成功しました」とジャーロフ氏は説明しています。また、ジャーロフ氏ら研究チームはより高出力のレーザーを用いることで、CTCをより効果的に破壊できるようになることを期待していると語っています。

ジャーロフ氏は10年以上前からこの技術のアイデアを温めていたそうで、これまでは動物などでその安全性をテストしてきたそうです。臨床試験に進む前にアメリカ食品医薬品局(FDA)の承認が必要となったそうですが、これも無事得ており、ジャーロフ氏らのレーザー治療システムはヒトでその効果が実証された「世界初の非侵襲的なCTC診断システム」であるとのことです。


CTCを検出するためのシステムは少なくとも100種類以上存在するそうですが、従来のシステムでは静脈から採血し、血液を体外で分析する必要がありました。また、従来型のCTC検出システムのうち、FDAの承認を受けているのは「CELLSEARCH」というシステムのみだそうです。このシステムは少量の血液サンプルを処理して血中に存在する可能性のあるCTCのスナップショットを撮影してくれるというものですが、がんの診断や治療にはまだ広く使用されていません。

また、2019年4月にはミシガン大学の研究者らが手首に装着し、血液を採取し血中のCTCを検出・破壊し、がん細胞がいなくなった血液を体内に戻すという装置を開発しました。しかし、この装置はまだ犬での試験を行っている段階であり、取り扱うことができる血液の量も2~3時間で大さじ2~3杯程度と少量です。

それに対して、ジャーロフ氏らの開発したシステムは体を傷つけずに使える(非侵襲的)という、他にはない特徴を持っていながら、1時間で約1リットルの血液を検査することができるという優位性を持ち合わせています。また、CTCの検出感度はCELLSEARCHの約1000倍にも及ぶそうです。

なお、研究チームはより多くの母集団でレーザーを用いたCTC検出・破壊システムをテストし、従来のがん治療法と組み合わせることで転移性がんへの影響を調べていく予定としています。

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