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2017年の研究によると、北米、欧州、オーストラリア、ニュージーランドなど先進国に住む男性の精子数が、1973年~2011年の過去40年間で50%以上も減少したことが発表されたが、今日もそれは減少の一途を辿っているという。
最近、新たな精子研究の調査結果が発表となった。若いスイス人男性を対象にした精液調査を初めて全国的規模で行ったところ、スイス人男性の精子は世界的に見てもかなり危機に瀕していることが発覚したという。
スイス人男性の精子が危機的状況
ジュネーブ大学の研究者たちは、スイス軍に入隊した18歳~22歳の2,523人のスイス人男性の精子を、濃度(1ミリリットルあたりの精子数)、数、運動率および精子細胞の形態率という3つの重要な指標に焦点をあてて調査を行った。
ヨーロッパでは精子濃度の中央値は4,100万~6,700万/mlであるのに対し、今回の被験者たちの精子濃度の中央値は4,700万/mlであることがわかった。
これは、ドイツやデンマーク、ノルウェーと並んで、ヨーロッパでも最低数値であることを示唆している。
また、WHO(世界保健機構)が2010年に発表した精液検査マニュアルでは正常下限値は1,500万/mlとなっているが、スイス人男性の17%がこの数値を下回っていたことが判明した。
更に、被験者の男性の4分の1が精子運動率は40%未満で、43%の男性が正常に形成された精子を持つ率が4%未満であることも発覚した。
全体的に見て、スイス人男性の38%のみが、精子濃度や運動性、および形態値においてWHOの「健康な精子」に当てはまる基準を満たしていたことになる。
将来の出生率低下を懸念
ジュネーブ医学部遺伝子医学開発学科に在籍し、今回の研究に携わったサージ・ネフ教授は、「男性の精子濃度が1mlあたり4,000万未満だと、パートナーの自然妊娠が困難になるということを理解する必要があります」と言う。
ネフ教授と同様、同学科の共同研究者であるリタ・ラーバンさんは、次のように話している。
「スイスの若い男性の精子の質は危機に瀕しています。精子濃度や運動率、形態率のどれか1つ、もしくはそれぞれの組み合わせが下限値を下回ると、相手の女性が受胎能力のリスクに晒されます。つまり、将来の出生率に大きな影響を与える可能性があるということです」
研究では、多くの男性が受胎に至るまでにはかなりの時間がかかることを示唆しており、5%の確率で、医療補助生殖技術が求められるようになることも報告されている。
世界的に注目される精子の危機、その原因は?
また、精子の危機問題は世界的にも注目されており、米国や中国などでもそれが指摘されている。
しかし、なぜ精子濃度が低下するのだろうか。その原因は未だ明確にはされていないが、ラーバンさんによると「少なくともスイスでは、単一の原因ではないことは明らか」だそうだ。
研究では、不妊傾向にある男性は、妊娠中に喫煙していた母親を持つ可能性が高いことが判明している。だからといって、質の悪い精子の原因がすべて母親の喫煙にあるわけではない。
飲酒や肥満、ストレスなどの生活習慣、農薬汚染といった環境要因などの複数の要因が組み合わさったことにより、精子の質の低下を引き起こすのではないかと推測されている。環境や生活習慣も精子の数や濃度に重要な役割を果たしているのだ。
精子の質の低下と精巣がんの関連性
また今回の研究では、精子の質の悪さが男性の子供を作る能力に影響を与えるだけではなく、精巣がん発生率の増加にも関連している可能性も示唆された。スイスでの精巣がんの罹患率に関するデータを分析したところ、過去数十年にわたって発症率が上昇していることがわかったという。
10万人あたりで調査をすると1980年には7.6例だったのに対し、2014年には10.4例と増加している。
精巣がんは、この35年間で男性10万人つき10人以上に発症するまでに、その発症率を着実に増加させています。
この割合は、他のヨーロッパ諸国と比較しても非常に高いものです。一般的に精巣がんの発生率が高い国では、精子の質も低いとされています。(ネフ教授)
逆に、スペインやフィンランド、エストニアなど精子数が多いとされる国では、精巣がんの発症率は少ないという。
研究者らは、こうした傾向が子宮内での精巣の発達の変化と何らかの関係があると考えており、この興味深い関連性を今後も更に調査していくとのことだ。
なお、この研究は5月21日のオンライン雑誌『Andrology』に掲載された。
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