2018.03.19
最近、タレントのGENKINGが、体も戸籍上も「女性」になったことをテレビ番組で告白し、話題を呼んだ。昨年、タイで性別適合手術を受けたという。
性別適合手術とは、体と心の性が一致しない「性同一性障害(GID)」の人が、体を心の性に合わせるための手術だ。
具体的には、外性器や乳房の切除・形成など、他の性別の特徴に類似した形態にすることを目的とする。また従来、性別適合手術は患者が全額を自己負担しなければならず、費用は100万円を超えることも珍しくなかった。
そもそも日本国内では実施している医療機関が少なく、予約待ちだけで数年かかることもあるという。だから、タイなどの海外で手術を受ける人も多かったのだ。日本でも4月から「性別適合手術」が保険適用に
しかし、この4月から、日本でも性別適合手術が「公的医療保険」の適用になる。保険適用になれば原則3割負担で、高額医療費の負担軽減措置もある。
また、保険適用によって手術を実施する医療機関が増えれば、待機期間も短くなる。手術を望みながら費用や期間の問題で悩んでいた人にとって、まずは朗報と言えるだろう。
だが、今回の性別適合手術の保険適用に関して、さまざまな問題点も指摘されている。
厚生労働省は3月5日に「ホルモン療法を実施している人は原則、保険の適用外とする」ことを決定した。現在の日本の医療制度では、同一の疾患に対して「健康保険による治療」と「自由診療の治療」を行った場合は「混合診療」と見なされ、健康保険は適用されずに全てが自由診療の扱いとなる。
大半の性同一性障害者は、自認する性別に体を近づけるため、「ホルモン療法」を受けている。男性ホルモンには、筋肉量を増やす、ヒゲや体毛が増す、女性ホルモンには乳房がふくらむなどの効果がある。
このホルモン療法が保険適用外(自由診療)のままでは、結局のところ、保険適用で性別適合手術を受けられる人はごく限られることになる。
また、保険適用は「手術の安全性を重視し、一定の基準を満たす医療機関に限る」とされており、現状で該当するのは、岡山大学病院、札幌医科大学病院、山梨大学病院の3施設程度しかないという。
これまでに学会や患者団体が中心となり、厚労省にホルモン療法も対象とするよう働きかけてきたが、今回の保険適用では認められない形となった。
GID学会理事長・岡山大学大学院教授の中塚幹也氏は「多くの当事者にとって形式的な保険適用となるが、制度の厚い壁にようやく大きな穴をあけられた。学会としても引き続き、ホルモン療法の適用を厚労省と協議したい」と述べている(山陽新聞Digital 2018年3月6日)。
米国では手術を受ける患者数が4倍に
米国では日本よりも一歩早く、性別適合手術の保険適用が進んでいる。特にオバマ政権時代に実施された医療制度改革法(通称オバマケア)がトランスジェンダーに対する差別を禁止したことが契機となり、企業が従業員に提供する健康保険に性別適合手術を含めることを義務化する州も増えている。
最近、米ジョンズ・ホプキンズ大学放射線学のBrandyn Lau氏らが米国での性別適合手術の実施に関する研究結果を報告している(『JAMA Surgery』2月28日オンライン版)。
全米の入院患者のデータを分析した結果、2000~2014年に性別適合手術の実施件数が4倍近くに増加しているという。また、同期間に性転換症(トランスセクシャリズム)または性同一性障害と診断された3万7827人のうち4118人(10.9%)が、性別適合手術を受けていた。
また、2000~2005年には約50%の人が自費で手術を受けていたが、その割合は2006~2011年には65%まで増加。その後、2012~2014年には39%に減少し、残る61%で公的保険や民間保険が適用されていた。
また、これまでに性別適合手術による死亡例がないことも明らかになった。この点についてLau氏らは「性別適合手術は危険だという批判が正当ではない可能性を示唆した」と述べている。
また同氏は「トランスジェンダーの患者に関するデータがなければ、正しいことを行っているのか、また改善するためには何をすればよいのかを判断することができない」と研究の目的を語っている。
今後さらにデータの集積や検討が進むことで、性別適合手術の有効性や安全性の評価が定まっていくことが期待される。
現在、日本の法律では戸籍上の性別変更を行うための要件として「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」という項目が含まれている。
つまり、性別適合手術を受けなければ、戸籍上の性別変更はできないのだ。性別適合手術は、まさに人生を根底から変えるだけに、有効性や安全性についてはさらなる検証が必要だ。
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