日本の離婚件数は2000年代に入って急激に増えましたが、直近ではやや減少傾向になっているようです。それでも平成30年に厚生労働省が発表した人口動態統計の年間推計では20万7000組が離婚しています。なかでも、同居期間25年以上のいわゆる熟年層の離婚は相変わらず高い水準にあります。
長年連れ添った夫婦が離婚するというのは、普通に考えるとあまり幸せなこととはいえないでしょう。それでも互いのこれからの人生にとってプラスになるのであれば、そういう選択をすることがあってもよいと思います。それに、夫婦のことは他人にはうかがい知れない面がありますので、良し悪しを他人が簡単に言えるものではないことは確かです。
ただ、一般的に考えた場合、少なくとも老後の生活という面で見れば、熟年離婚には2つの大きな問題があると思います。ひとつはお金の問題、そしてもうひとつは生活の問題です。
熟年離婚には2つの大きな問題がある
まずはお金の問題ですが、結論から言ってしまうと熟年での離婚は経済的に決してプラスにはなりません。むしろマイナスのケースのほうが多いと思います。
離婚にまつわる金銭の問題といえば、すぐに「慰謝料」が頭に浮かびます。しかしながら慰謝料は、片方が何らかの理由で精神的な苦痛を受けた場合に支払われるものですから、離婚すれば常に慰謝料が生じるとは限りません。
よくタレントやスポーツ選手が離婚したときの巨額の慰謝料が話題になりますが、ごく一般の夫婦の場合にはあまり参考にはならないと考えたほうがよいでしょう。私が以前、一緒に本を書いた社会保険労務士の井戸美枝さんによれば、熟年離婚に該当するような20年以上の結婚期間があっても、せいぜい300万円程度もあれば多いほうだそうです。
次に財産分与ですが、これは結婚期間に築いた財産は夫婦2人の力によるものという考え方ですから、半分が目安になります。ただ、普通のサラリーマンの場合、財産といってもその多くは自宅ですし、それもまだローンが残っていたりするとその分を引かなければなりませんから、相当な金融資産でも持っていない限りは離婚した奥さんもそんなにお金を受け取れるわけではありません。
最後は年金です。平成19年以降、離婚した場合に夫の年金を分割できるようになったことで離婚を決意した妻が増えたとよくいわれますが、これも実際のところはそれほどもらえるわけではありません。分割できるのは厚生年金だけですから夫が自営業の場合、妻は一銭ももらえないのです。
サラリーマンの夫を持つ専業主婦の場合、半分はもらえますが、これは結婚期間に相当する部分です。たとえば結婚期間が30年で、その間の厚生年金を計算して月額にして10万円ぐらいだとすれば、その半分の5万円が妻の分です。妻の分の基礎年金と合わせても10万円を少し超える程度ですから、それだけで十分な老後の暮らしができるかどうかは疑問です。夫にとっても本来受け取れる厚生年金の金額が半分になってしまうわけですから、さらに老後の生活は心細くなります。熟年離婚によって夫婦共に老後貧乏ということになりかねません。
熟年離婚後に襲ってくる三大不安
結局、経済的なことに限っていえば、2人とも働いて夫婦仲良く暮らすというのがベストな選択だといえるでしょう。どの世代においても夫婦共働きは経済的には最強の生き方です。さらに、夫婦がそれぞれ仕事を持って働き続けることには経済的な面以外にもメリットがあるのです。
私はいつも、老後の三大不安は「貧困」「病気」「孤独」だと言っています。熟年離婚によって老後貧乏に陥ることも憂慮しなければいけませんが、私はむしろそれ以上に恐ろしいのは「孤独」に陥ることだと思います。もちろん、離婚しなくても、会社を定年になった後、友達も少なく、家族にも疎まれて孤独に陥る人はいるでしょう。まして、60歳を過ぎてから一人になってしまうことは、できるだけ避けたいところです。
熟年離婚は長年不満を抱き続けた女性の側から切り出されるケースも多いため、離婚後は元気になる女性が多い反面、男性は一層落ち込んでしまうことになりがちだといわれています。そうならないようにするため最も重要なのは「自立すること」です。これは経済的な意味での自立という意味だけではありません。生活面においても精神面においても相手に寄りかかったり負担をかけたりすることなく、互いを尊重しながら、家事労働なども分担して行うことが大切です。
現役時代の熟年離婚以上に恐ろしいのは、定年後何年か経った後に高齢離婚になってしまうことです。この場合は心身ともにさらに大きなダメージを受けてしまいます。仮にそういうことになってしまったとしても、経済的にも精神的にも一人で生きていけるように「自立する」気持ちを持って行動することは、大切だと思います。そして、そういう気持ちは持ちながらも、互いのコミュニケーションは大切にし、いっときの迷いで離婚するという選択肢はなるべく避けることが賢明なのではないでしょうか。
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