あなたの暮らしに“笑い”は足りているだろうか? 「笑う門には福来る」の言葉どおりと言おうか、『Journal of Epidemiology』(4月6日オンライン版)に“笑いの効用”が報告された。
笑いと免疫力は関係がある!?
山形大学医学部看護学科教授の櫻田香氏らが導き出した新たな知見によれば、生活のなかに「もっと笑いを」という習慣化が、寿命を延ばすことにつながるかもしれない。一般的な日本人の場合、日常生活のなかで「笑う頻度」が高ければ高いほど、心筋梗塞や脳卒中を予防し、早期死亡リスクの低減する可能性があるという。
漠然とした不安や抑うつなどの心理的な苦痛、いわゆるネガティブな要因が心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の発症につながる可能性は、これまでの研究でも示唆されてきた。一方で、ポジティブな心理的要因が長寿に関連していることも報告されている。
「笑う頻度」が少ないのは、こんな人!?
今回の比較検討が耳目を集めているのは、「笑い」に焦点を絞った解析が行なわれた点にある。具体的には、県内在住の一般住民を対象とした「山形県コホート研究:Yamagata Study」に参加し、健康診断を受けた40歳以上の男女1万7152名(うち男性参加者40.8%)のデータが検討対象に用いられた。
参加者への質問項目では、日々の生活のなかで「笑う頻度」を問い、頻度の解答別に3群(週1回以上/週1回未満~月1回以上/月1回未満)に仕分けされた。それらの相違から、死亡率および心血管疾患の発症率との関連が比較解析されたわけだが、5.4年の追跡期間中に257人(1.5%)が死亡し、138人(0.8%)が心血管疾患を発症していた。
解析結果(中央値)をみると、日頃「ほとんど笑わない」層は、全死亡率と心血管疾患の発症率が「有意に高い」傾向が読み取れた。さらに年齢や性別/高血圧の有無/喫煙・飲酒習慣で調整した結果、「週1回以上」笑う人と「月1回未満」しか笑わない人の比較では(後者の死亡リスクが)約2倍高まる点も判明した。一方、同じく「週1回以上」と「週1回未満~月1回以上」の比較では、後者の心血管疾患の発症リスクが約1.6倍となっている。
「なんばグランド花月」で笑いの免疫力を実験
今回の報告対象は山形県在住者の「リスク傾向」だが、じつは「笑いの本場」関西圏では90年代から「リスク軽減=笑いの効用」に関する実験研究が実施されている。
その嚆矢といえるのが「笑い」が免疫力に働きかける効用を実証すべく、1991年の大阪は「なんばグランド花月」で開催された実験例だろう。当日は20~62歳のがん患者たち(男女19名)が約3時間に渡って漫才や喜劇を堪能し、その前後の反応で「NK(ナチュラル・キラー)細胞の活性率」を調べた。
主にがん細胞を攻撃するNK細胞の場合、その活性化の効用でアトピー性皮膚炎の症状が緩和されることや、海外例では悪性黒色腫の死亡率/再発率の減少も報告されている。この花月実験では、もともとNK細胞の活性率が低かった人ばかりでなく、高すぎた人に関しても「適正値に近づいた」という好結果が示されている。
笑う機会を持つ工夫が長寿の秘訣!?
近年でも2017年4月に大阪国際がんセンターが「笑いとがん医療の実証研究」と題し、がん患者とその医療提供者を対象に、笑いの効用が「生活の質(QOL)」「免疫機能」に与える影響の探求を実施。鑑賞する舞台には、吉本興業や松竹芸能の芸人勢、米朝事務所から落語家が協力出演。その名も「わろてまえ劇場」が計8回行われた。
こうした試みは、がん医療関連に止まらない。昨年(2018年)1月には大阪府立病院機構・大阪精神医療センターが吉本興業と連携し、笑いを「認知症の予防」に取り入れる全国初の実証研究を行なう旨を発表。同センターで認知症予防プログラムを受けている60歳以上の市民30名を集めて、お笑いを堪能してもらうイベントも催された。
山形大学櫻田教授らは分析報告書で「日本人の一般集団では笑いが、全死亡や心血管疾患発症の独立したリスク因子である可能性が示唆された。心血管疾患を減らし、長寿を目指すのであれば、日常生活でもっと笑う機会を持つ工夫が必要かもしれない」と、「笑いの効用」を提言している。
であれば、超高齢化社会で「お笑い芸人」はより重用され、「笑いの総合商社」はそれこそ笑いが止まらないだろう。
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