2019年6月22日土曜日

お金が多いほど戻ってくる確率が高い

落とした財布は中に入っているお金が多いほど戻ってくる確率が高い




1万7000個ものサイフを使い世界40カ国・355都市で行われた大実験で、「サイフの中にお金が入っていればいるほど、サイフは持ち主の元に戻ってくる」という研究結果が示されました。この実験結果は、一般人や経済学者の予測に反するものだったそうです。

Civic honesty around the globe | Science
https://science.sciencemag.org/content/early/2019/06/19/science.aau8712

”Missing” Wallets with More Cash Are More Likely to Be Returned - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/missing-wallets-with-more-cash-are-more-likely-to-be-returned/

研究を行った経済学者たちは3年かけて世界40カ国の公的機関・私的機関に、さまざまな額のお金が入ったサイフ1万7000個をわざと落とし、そのサイフが持ち主の元に戻ってくるかを調査しました。この結果としてまず、国によってサイフが戻る確率がばらばらであることが判明。最もサイフが戻る確率が高い国はスイスで76%、低い国は中国で14%でした。

以下の図から、調査が行われた国におけるサイフが戻ってくる確率を見ることができます。オレンジのドットが「お金の入っていないサイフ」、赤いドットが「お金の入っているサイフ」を表しており、ドットが右にあればあるほど戻ってくる確率が高いことを示します。


そして、興味深いのは、国によってサイフが戻ってくる確率にばらつきがあるものの、40カ国中38カ国で「お金が入っているほどサイフは持ち主のもとに戻ってくる」と示されたこと。これは、研究者たちの予測に反する結果だったため追跡調査も行われましたが、最終的に「どこの国でも、人は自分を『盗っ人』だと考えることを避けたがること、そして利他主義からこのような行動を取るのだ」と結論付けられました。

この手の実験は「実験室」という限りある範囲内で行われがちであるところ、実際の街の中で大規模に実験が行われたというのも、この研究が注目されている点の1つです。複数の国・都市・機関をまたがる実験で、「40カ国中38カ国で同じパターンが見られた」ということは非常に明白かつ強力な発見だと評価されています。

もともとこの研究は、小規模な実験から始まったものでした。2013年、チューリッヒ大学のMichel Maréchal氏とミシガン大学のAlain Cohn氏は、フィンランドの学生に観光客を装って街の中でサイフを落としてもらい、それを拾って近くのスタッフに「誰かが落としたサイフを見つけたのだけど、対処してほしい」と伝える実験を行いました。この結果、「サイフの中の額が多いほどサイフは持ち主の元に戻ってくる」と示され、信じられなかった2人の研究者はさらに金額を3倍にして実験を実施。しかし、金額を3倍にしても「額が多いほどサイフが戻ってくる」という結果は変わらなかったそうです。「こうした結果はフィンランドだからではないか」と考えた2人の研究者は、世界355都市での実験に踏み出しました。


世界40カ国での実験に使われたサイフは透明なプラスチック製のもので、「お金が全く入っていない」か「1400円相当が入っている」かでした。お金の他にはカギ、地元の言葉で書かれた買出しメモ、現地の名前が記された名刺3枚が入っており、本体が透明なのでサイフを開かなくても金額や中に含まれているものがわかるものでした。実験場所は銀行や美術館、ホテルなどレセプションがあるエリアで統一され、研究アシスタントは施設のカウンターにいるスタッフに近づき「道の角でこれを見つけたんだけど、私は今すぐに行かなければならないから、サイフを適切に扱ってくれないか?」と話しかけたそうです。アシスタントは特に連絡先を残すことなく去り、その後、サイフを受け取ったスタッフが100日以内に持ち主に連絡するかどうかが調査されたとのこと。

この結果、サイフにお金が追加されると報告される可能性は平均して41%から51%に上昇することが判明。この実験結果が信じられなかった研究者は「サイフを受け取る人の年齢をコントロールする」「目撃者や監視カメラの条件を調整する」といった実験を追加で行いましたが、結果は変わらず。さらに特定の3カ国では金額を約1万円に上げて実験を行いましたが、この場合の報告率は72%にまで上昇したとのこと。


研究ではアメリカの成人被験者に対して実験について説明し、何が起こるかを予測してもらったところ、「金額が大きくなるにつれ、報告せずにお金を自分のものにする人の割合が増える」という考えの人が大多数でした。経済学者を対象とした調査でも同様の傾向がみられ、「お金が増加すると返還率がわずかに下がるだろう」というのが予測でした。

実験が行われた国におけるサイフの返還率は、その国における「汚職率」「脱税率」といった「正直さ」に関する要素との関連性が見られました。ただし、研究者はこのような関連性よりもむしろ「より多くのお金が正直さを促す」という一貫した傾向があることに注目しています。「お金が多いほど返還率が高くなる」というパターンにあてはまらなかった例外はメキシコとペルーだそうです。

なお、今回の実験場所に日本は含まれていませんでした。

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